少年



少年には、友達がいなかった。
性格の大人しい彼は、いじめの標的になっていた。
クラスメートは、自分のストレスを発散する道具として彼を扱った。
気分が悪ければ殴り、面白いことが無ければ見せ物にしてなぶった。
少年は、学校へ行くのが嫌いだった。

ある日、運動場にケガをした子犬が迷い込んできた。
クラスの女の子達は、その子犬が可哀想だと言って手当をしてあげた。
ところが、その子犬は、女の子達にはなつかず、少年の所に走り寄ってきた。
嬉しそうに尻尾を振りながら少年を舐め回した。
すると、女の子達は、「この犬、何?」と態度を変えて子犬を蹴飛ばした。
「何でお前になつくの?」
少年も蹴飛ばされた。

子犬は学校に住み着いてしまった。
石を投げられても、蹴飛ばされても少年が来るのを待った。
少年の姿を見つけると、嬉しそうに走ってきた。
少年は、その子犬が好きになった。

教室で、クラスの女の子達が話していた。
「あの犬、ホント、むかつくよね。
私、お母さんに言って、保健所に知らせてもらうよ。
勉強の邪魔になるって。」
それを聞いた少年は、子犬をこっそり連れて帰った。
海岸のテトラポッドの隙間に段ボール箱を置き、ボロ切れを敷いて子犬を置いた。
そして、給食の残りのパンをあげた。

夜、家でテレビを見ていると父親が仕事から帰ってきた。
「外は雪が降ってるぞ。
今夜は、冷えるぞ。」

少年は、子犬のことが気になって仕方ありませんでした。
でも、子犬のことを話す勇気がありませんでした。

翌朝、学校へ行くときに様子を見に行くと
子犬は、段ボールの中で石のように冷たく固くなっていました。
少年は、無言で砂浜を掘って子犬を埋めてやりました。

学校が終わると給食の残りのパンを子犬の墓に供えてやろうと思い
砂浜へ向かいました。
すると、クラスメート数人が墓を掘り起こし
子犬の死骸を「汚い、汚い。」と言いながら足で蹴ったり棒きれでつついていたのです。
少年は、彼等が怖くて物陰から、その様子を黙って見ていました。

彼等が立ち去ると、変わり果てた姿の子犬をまた砂浜に埋めました。
そして、子犬の墓に並んで座りました。

目の前には、海が広がっていました。

「ごめんな・・・、ごめんな・・・。」
少年は、顔を伏せて泣きました。
たった一人の友達のために泣きました。
自分のために泣きました。

ただ波の音だけが聞こえていました・・・。



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