タコヤキ


僕が小学生の時、同級生にフンコロガシというあだ名の女の子が居た。
家が貧しい為か毎日薄汚れたような服を着ていて
みんなからクサイだの汚いだの言われてイジメられていた。
フンコロガシは、小学生でありながら実家の前でタコヤキの屋台を出していた。
親達は、そんな彼女を感心な女の子だと褒めた。
僕の親父も毎日のようにフンコロガシのタコヤキを買ってきた。
「あの子は、将来、いい嫁さんになる。」とベタ褒めだった。
僕は、そんな親父の手前、まるで苦い薬でも飲む様な気持ちで
フンコロガシのタコヤキを食べた。
心の中で「ゲー!」とえずきながら・・・。

時は、流れた・・・。
僕は、中年と言われる年齢になっていた。
まだ、独身だった。
おまけにリストラをされて無職になった。

40を過ぎての就職活動は厳しかった。
手に職があるわけでも無い僕を雇う会社は皆無だった。
生活は貧窮を極めた。
ホームレス寸前まで行ってしまった。
いや、餓死寸前だった。

最後の賭けのつもりで面接を受けた。
海産物を扱う最近急成長した有名な会社だ。
ところが案の定、年齢や転職の多さを指摘され絶望的な気持ちになった。
僕は、ただ俯いて打ちひしがれていた。
そこへ中年の女の人が入ってきた。
「あっ、奥さん!」
面接官は、立ち上がって挨拶をした。
どうやら、社長の奥さんらしい。
その人が、何と僕に向かって声をかけた。
「○○君!○○君でしょ!」
驚いて見た奥さんの顔は・・・、忘れもしない、みんなからクサイ、汚いと言われイジメられていた
あのフンコロガシだった!

後日、その会社から採用通知が届いた。
どう考えても奥さんが同級生の僕を拾ってくれたとしか思えなかった。
僕は、命を救われた。

仕事を始めてみると奥さんも現場で働いていた。
従業員以上に汗水を流して・・・。
同僚の話によると会社が大きくなったのは奥さんのおかげだという。
働き者の奥さんを誰もが尊敬していた。

数ヶ月が過ぎ、僕の生活も何とか安定してきた。
そんな時に会社の食堂で従業員の親睦会が開かれた。
出前の寿司と酒類が出され和やかな集まりだった。
社長の横に座っていた奥さんが何処かへ消えたと思っていたら
荷物をかかえて戻ってきた。
それは、家庭用のタコヤキセットだった。

「おー、奥さんのタコヤキだ!」
従業員達は、拍手喝さいをした。
親睦会の時に奥さんがタコヤキを焼いて従業員にふるまうのが
恒例行事になっているらしかった。

奥さんは、手馴れた感じでタコヤキを焼いて自ら従業員達に配った。
僕のところにも奥さんは、やって来た。
タコヤキの乗った皿を僕の前に置き、話しかけてきた。

「○○君、覚えてると思うけど、私、子供の頃、タコヤキの屋台出してたでしょ?
あの頃、○○君のお父さん、毎日、買いに来てくれて私を励ましてくれたのよ。
それで、私、頑張れたの。
今でも○○君のお父さんに感謝してるの。」

僕は、あの頃、吐きそうな気持ちでフンコロガシのタコヤキを食べていたのだ!

親睦会が終わり、残ったタコヤキは独身である僕が持って帰った。
薄暗いアパートの部屋で一人、僕は、奥さんの焼いたタコヤキを食べた。

涙が後から後から零れ落ちてきた・・・。


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