大切な約束


長い間、失業状態だった。
あっという間に貯金は、底をついた。
それからは、坂を転がり落ちるようだった。
サラ金で借りた金で生活する日々・・・。
仕事は見つからず、借金だけが増えていく・・・。

僕は、そんな毎日をネット上のブログに綴っていた。

ある日、僕にメールが届いた。
僕のブログを見ているという人からだった。

『ブログ、いつも拝見しています。
大変な日々をお過ごしですね。
私だったら、とても耐えられません。
きっと自殺しているでしょう。
そうです。
あなたも自殺すれば良いのです。
それ以外に、あなたの道はありません。』

自殺・・・、そうか、
他人から見ても、僕は、自殺するしか無いのか!
幸い、小額ながら生命保険に入っているので
自殺すれば金が下りるだろう。
それで借金の返済をしてもらえば良いのだ!
うん、それ以外に方法は無い!

僕は、死に場所を求めて街をうろついた。
何処で死のう?
どんな方法で死のう?

何気なくデパートに入り、屋上を目指した。
エレベーターに乗った時だ。
一人の上品そうなお婆さんが、僕を見て
不思議そうな顔をしていた。
恐る恐る僕に近付いて小声で囁いた。

「あなた、霊に憑かれてますね。
それも水子に。」

そんな事、あるはずが無い!
女の子と付き合ったことの無い僕に水子の霊?

何となくバカにされたような気がして
「ちょっと話をしませんか。」とお婆さんに声をかけた。
「ようござんすよ。」
お婆さんは、気軽に答えて途中の階で一緒に降りてくれた。

人通りの少ない階段近くに休憩所のベンチが有り、
僕は、お婆さんと並んで座った。

「僕に水子の霊が憑いてるって、本当ですか?
有り得ないんですけど・・・。」
「いやいや。見えるんですよ、私には。
声だって聞こえるんですよ。」
「声?」

水子・・・、赤ちゃんなのに喋るのか?
ますます、バカにされたような気になった。
僕は、怒りつつ尋ねてみた。
「で、その水子は、何と言ってるんですか?」
「はいはい・・・。
私は、お兄ちゃんが羨ましい・・・。」

その言葉を聞いた時、僕は、言いようの無い気持ちになった。
お兄ちゃん・・・?僕の妹!

僕には、妹が四人いる。
実は、そのうちの二番目と三番目の間に、もう一人いたのだ。
当時、うちの家計が苦しかった為、堕胎されたのだ。
両親は、その事を心から悔やんだようだ。
だから相変わらず厳しい状況でも三番目と四番目の妹を
生んだのだと思う。
一人だけ生まれてこなかった妹・・・。
その妹が、僕を羨ましいと言っている・・・。
たとえ悲しく惨めな人生であっても、この世に生まれてきた僕・・・。
それなのに自殺しようと考えた・・・。
苦しみから逃げようとした・・・。

どんな人生であろうと生まれてきたからには生きる義務がある。
そう、それは、義務だ。
頑張れば、ささやかでも生きてきて良かったと思える瞬間を
神様は与えてくれるのだ。
その事を妹は、僕に教えに来たのではないか?

「あっ!消えましたよ!
あなたに憑いていた霊が落ちました!」
お婆さんが嬉しそうに言った。

「ありがとうございました!」
僕は、礼を言ってアパートに帰った。
そして、メールの返事を送った。

『残念ながら僕は、あなたのおっしゃる様に自殺は出来ません。
生きて生きて生きまくるつもりです。
なぜならば、これは、僕と妹の大切な約束だからです。』



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