運命の人(共同作品)



(作者:諸星アキラ)
秋は、人恋しい季節だ。
真夜中に一人、パソコンでインターネットをしながら
僕は、運命というものについて考えていた。
運命は自分で変えられるという人がいる。
でも、僕は違うと思うんだ。
自分で変えたつもりでも、それは既に運命というプログラムに
組み込まれた出来事じゃないのか?
運命は、自分が生まれる以前から既にシナリオが完成されているのではないのか?と、思うんだ。
だとすれば、運命の人も必ず存在する。
きっと何処かにいるはずだと・・・。

(作者:冴那)
きっと何処かにいるはずの誰か…。

僕は、その誰かを探す旅に出ようと思った。
用意されたプログラムやシナリオならば
必ず出逢えると妙な確信を持ってしまったからだ。
まずは、その旅行の準備をしなくては…。

さて、何から始めよう…。

(作者:諸星アキラ)
旅行案内のHPを検索してみた。
何処もかしこも同じ様な宣伝文句。
リンクを辿り目に止まった地名「恋人岬」。
僕の第六感が閃いた。
「行かなくちゃ!運命の人に出会いに!」

(作者:冴那 )
僕は、今までの自分が嫌いだった。
やってみたい事は、山のようにあるのに行動が伴わない。
いつも諦めてしまうのだ。
「やってみても仕方ない」それが僕の口癖だった。
でも、それは嘘だった。
ただやってみて傷付く事が怖かっただけだ。
なのにこの行動力は何処から来るのだろう?
僕は、不思議で堪らなかった。
今の僕は、前を向いて進んでいる。
こういう気分は決して悪いものでもなかった。

振り返ると何日か前の僕が、恨めしく今の僕を見つめていた…

(作者:諸星アキラ )
各駅停車の電車は、海岸線を走っていた。
ローカル線独特のノンビリした空気が車内に流れていた。
僕は、今まで会社を休むことは罪悪だと思っていた。
だから風邪をひいて熱のあるときでも身体を引きずって出社した。
それが当然だと思い、自分から進んで仕事人間になっていた。
でも心の空白はいつも感じていた。
この先に何があるのか?
その答えは、いつも「灰色の未来」だった。

(作者:あゆ)
リカは、駅のベンチに座り電車が来るのを待っていた。
淡いピンク色のワンピースに身をつつんでいるものの、
気分はとてもブルーだった。
友人の主催するお見合いパーティに誘われ、断りきれずに
出掛けるところなのだ。
5年前、つきあっていた彼に裏切られたショックから
リカはすっかり恋愛恐怖症になっていた。
「どうしよう…やっぱり行くのやめようかな…」
帰ろうと立ち上がった時、「恋人岬駅」のホームに電車が入って来た。

(作者:諸星アキラ)
電車は、「恋人岬駅」のホームに近づいた。
果たして会社を休んでまで行くような場所だろうか?
僕は、いい歳をしてバカなことをしてるんじゃないんだろうか?
ギリギリになって、あれこれ考え込む悪い癖が出てきたようだ。
こんなときは、思い切って行動するに限る。
やってしまって後悔する方が、何もせずに後悔するよりマシだからだ。
電車は、ホームに滑り込んだ。
僕は、期待と不安を胸に、「恋人岬駅」のホームに降り立った。

(作者:康)
降り立った途端、目の前にピンク色が立ちふさがった。
思わず見上げると、そこには少しとまどった表情の女性が立っていた。
「すっ、すみません」口の中でモゴモゴとそんなことを呟いていると、
通せんぼした格好になり、ドアが閉じてしまった。
動き出した電車に気を取られながら、もう一度「すみません」と謝っていると、
「気にしないでっ」一言いうと、彼女はスタスタと改札口へ歩いていった。

(作者:あゆ)
リカは、内心ほっとしていた。
言い訳がひとつ出来たと思ったからだ。
さっきまでの憂鬱な気分から解き放たれ、自由の身になったようで
思わず鼻歌でも歌いたいほどだ。
駅の改札を出てしばらく歩いた時、ふいに後ろから声がした。
「すみません」
振り向くとさっき通せんぼした彼だった。
「あの…、さっきは、すみませんでした」
「え?あ、ううんいいの!ホントはもう電車に乗るつもりは
なかったから…。全然、平気!
だから気にしないで。」
そう言ってそそくさと立ち去ろうとした時、またもや呼び止められた。
「あのぉ…、恋人岬までの道を教えてもらえませんか?」

(作者:諸星アキラ)
海岸沿いの小道をピンクの彼女と並んで歩く。
海は澄みきってキラキラと輝いている。
なるほど、さすがは「恋人岬」だ。
そこかしこに仲むつまじいカップルがいる。
こうやってピッタリくっついてる事が当たり前かのように。
僕は、何気なく横の彼女を観察してみた。
中肉中背といったところか?
顔立ちは、美人と言うほどではないにしても何か凛とした美しさがある。
歳は、いくつくらいなんだろうか?
彼氏とか居たりするんだろうか?
僕は次第に彼女のことが気になり始めた。

(作者:康)
「しかし、みんな暇だネ」リカが呟くように、ぽつりと言う。
駅を出てすぐに、バス停も有ったのだが、
「暇してるからッ」と、車で送ってくれたのだ。
3・40分はかかると聞いていた道も、あっと言う間だった。
車を降り二人並んで、遊歩道を歩いてゆく。
「まっ、他人のことは言えないか?」いたずらっぽくリカが笑う。
いつの間にか、彼女の顔を見つめる格好で目が合った。
あわてて、
思わず前方にある鐘を見つけ「あれが、愛の鐘ですか?」と彼女から少し離れた。
「それは金の鐘、愛の鐘はもう少し先」
確かに、鐘の下の案内プレートにも書いてあった。
「詳しいんだね」と言うと、
「来たこと有るからね、むかしの事だけど・・・」
「でも、前より整備されてるよ」と言いながら周りを見渡す。

(作者:諸星アキラ)
ネットで調べたんだが、「恋人岬」の由来は、
昔、親同士の仲が悪くて交際を反対されてた二人が
この岬から身を投げて心中して、それを不憫に思った人々が
名付けたらしい。
そこにある「愛の鐘」を男女二人でつけば、永遠の愛が叶えられると
言われている。
これは、観光客を呼び寄せるためにこじつけた物だと思うが・・・。

「愛の鐘」があるという岬の先までの坂道を歩きながら
ピンクの彼女に話しかけた。
「あの・・・、あなたのお名前を教えて頂けませんか?」
彼女は、怪訝そうな表情で答えた。
「教える必要が有るんでしょうか?」
「いいえ、親切にしてもらいながら名前すら知らずにお別れするのも
換えって失礼かな?と思いまして。」
すると、「リカ。」と怒ったように早口で喋った。
「ひょっとして、香山リカ?」
リカは、驚いて尋ねた。
「なぜ、私のフルネームを知ってるの!?」
僕は、笑いを堪えながら言った。
「リカちゃん人形と同じ名前なんですね。」
どうやら、それは彼女の勘に触ったらしい。
顔を真っ赤にしながら「あとは、一人でも行けますよね?」と
言うより先にきびすを返して一人で坂を下りてしまった。
なぜ彼女は、あんなにも不機嫌なんだろう?
僕には、理解出来なかった。

「恋人岬」は危険防止の為か柵で囲われていた。
その柵を掴み下を覗き込む。
吸い込まれるような断崖絶壁だ。
岬の突端に「愛の鐘」はあった。
アベック達が先を争うように鐘をついていく。
「コーン!コーン!」
まろやかな金属が発する音とは思えない音色。
僕は、ぼんやり彼等の姿を眺める。
何か、一人で取り残されたような気持ち。
いい年をした男が、一人で「愛の鐘」をつく。
どう考えても、惨めだ。
鐘に飽きたのか?それとも、もっと楽しいことがあるのか?
鐘の前に陣取っていたアベックが去っていった。
今がチャンスだとばかりに、その前に立ってみた。

「愛の鐘」は金色に輝いていた。
1メートル程の長さの紐が垂れ下がっている。
これを二人で持って鐘を鳴らすのか・・・。
僕は、紐に手をかけてみた。
恋人と持つ紐を一人で握っている。
今の僕の姿は、辺りにいる恋人達には、どう映るのだろう?
誰にも愛されたことのない僕は、彼等にどう見えるのだろう?
胸にこみ上げてくる感情を抑えきれなくなり涙があふれ出た。
視界が滲む。
まるで、今までの自分に復讐するような気持ちで鐘を鳴らした。
「コーン!コーン!」

一瞬、目の前がフラッシュした。
閉じた目をゆっくり開けてみる。
すると信じられない事が起きていた。
「橋だ!透き通った橋が架かっている!!」
岬の向こうにガラスで出来ているような橋が架かり
その向こうに扉が見える。
僕の頭の中に、誰かの声が響いた。
「その橋を渡れ!」

その声に背中を押されるように僕は、柵を乗り越え橋に足を掛けた。
「飛び降り自殺だ!!」
後ろの方で声がする。
僕以外の者には、この橋が見えないのだろう。
少し愉快な気がした。
まるでサーカスの綱渡りでもしてるような気持ちで橋を渡る。
扉のノブに手を掛ける。
そして、ゆっくり開き中へと入る。
その瞬間、また目の前がフラッシュした。
僕は、意識を失った。

「ここは何処なんだろう?」
身体の感覚が戻り、ゆっくりと目を開ける。
「気が付いた?」
声のする方に顔を向けて、僕は驚き跳ね起きた。
「保健室の先生!?」
「何を驚いてるの?
君は、クラブの練習中に貧血を起こして倒れたのよ。
また、深夜放送でも聴いて夜更かししたんでしょう?」
僕の頭の中は、まだ混乱している。
ここは、中学校の保健室。
目の前にいるのは、腹が痛いとき正露丸を貰いに行った懐かしい保健室の先生。
「顧問の先生には、私が伝えて置くから今日は、もう帰りなさい。」
先生は、昔のまんまの優しい笑顔で話している。
僕は、言われるままに学生服を着て学校を後にした。

家に帰ると妹が悪戯っぽい顔をして僕に手紙を差し出した。
「やーい!女の子からだよー!」
僕は、まだ小さい妹に軽くゲンコツをくらわせて自分の部屋に入った。
そう言えば、あの頃、つまり今頃、僕は学年雑誌のペンフレンド募集のコーナーに名前が載っていた。
予想以上の手紙が届き、おざなりの返事を送った人が何人もいた。
手紙の差出人を見る。
「香山リカ!!」
あの子は、中学生の時、僕に手紙を送っていたのだ!
僕は、机の引き出しから便箋を出して手紙を書き出した。

「僕は、君をずっと待ってたよ。」


The END

(執筆者:諸星アキラ,冴那さん,あゆさん,康さん)



もどる

inserted by FC2 system