チョビレ砂漠の人間豆


天気の良い日だった。
僕は、一人、旅館でくつろいでいた。
おかっぱ頭の仲居さんがお茶を持ってきた。
続いて派手な顔立ちの女が部屋に踊りながら乱入してきた。
仲居さんは、「おっ!よっ!」と楽しそうに掛け声をかけている。
踊る女は、服を脱いで全裸になった。
仲居さんは、「出るよ!出るよ!」と囃し立てている。
踊る女は、股間から何かを産み落とした。
近付いて手に取ると、それはゴム製のカバの面だった。
「お客さん、当たりですよ!」
仲居さんは、喜んでいる。
僕も何だか愉快な気持ちになって、そのカバの面を被って戯けてみた。

「探しましたよ、先生!」
テレビ局のディレクター風の男が部屋に飛び込んできて僕の腕を掴んだ。
あっという間に車の中に連れ込まれた。
「今回は、ある家の掃除をやっていただきます。期待してますよ、先生!」
多分人違いだと思うんだが、愉快な気分になってるので「先生」のふりをする。
車は、どんどん淋しい山道に入っていく。
いつの間にか日が暮れていた。

山の中の一軒家の前で車が停まった。
「じゃ、先生!後はヨロシク!」
僕は、一人残されて、その家に入っていった。
酷い!家の中は、泥棒に荒らされたように散らかっている。
これを掃除するのか!?
その家の主人らしき男とその妻らしき女が、一生懸命片づけをしている。
僕は、何から手を付けて良いのか分からず、二人の様子を見ていた。
奥に薄暗い部屋があったので入っていった。
棚にマネキンの首が無数に並べられていた。
不気味な部屋だ。
僕は、何気なくそのうちの1つを手に取ってみた。
柔らかい!
足元に何かが滴り落ちた。血だ!
これは、人間の生首じゃないか!?
台所の方でシュッ!シュッ!という音が聞こえてきた。
覗いてみると老婆が大きな出刃包丁を研いでいた。
振り向き、僕の顔を見て、ニャッと笑った。
このままでは不味い!!
僕は、慌てて玄関に行くと、そこには靴が山のように積み上げられていた。
「僕の靴は何処なんですか!?」
片づけをしている夫婦に聞いても、横を向いて汗みどろになりながら動いてるだけだった。
これでは埒があかない!
僕は、裸足で飛び出した!

何処をどう歩いたのか分からない。
夜は、しらじらと明けてきた。
目の前に大きな屋敷が見えてきた。
外側をグルッと廻るとガラス張りのプールがあった。
扉を開けて中にはいると初老の男が椅子に座り、ビキニ姿の外人の女数人をはべらせて
楽しそうにトロピカルドリンクを飲んでいた。
「あの・・・、僕を助けてくれませんか?」
話しかけても男は僕を無視したままだ。
ガシャン!ガシャン!
大きな機械的な音が聞こえてきた。
外を見ると、蜘蛛の様なボディで顔が人間の女(多分、ロシア人。)のロボットが
ガラスに貼り付いてこちらを見ていた。
悲しそうな表情で僕の方をじっと見て、目から赤い涙を流した。
蜘蛛型ロボットは、また大きな音を立てながら何処かに消えてしまった。

僕は、外へ出てロボットの居た場所に行ってみた。
ロボットが流した赤い涙だと思った物は、赤いマントだった。
「これがあれば飛べる!」
僕は、早速、マントを羽織って思い切り走ってジャンプした!
飛べた!ただし地面から数センチだけの低空飛行。
それでも、僕は飛んでいる!

人が沢山居る繁華街に行った。
「皆さん、僕は、今、空を飛んでるんです!見て下さい!」
何百人、何千人と居る人の波、それをかき分け僕は飛んだ。
「見て下さい!見て下さい!」
誰も僕を見ようとはしなかった。

僕は、だんだん悲しくなってきた。
「これは多分、地面と平行に飛ぶからダメなんだ。
地面に対して垂直に飛んでやれ!」
僕は、空に向かってジャンプした!

僕の身体は、ドンドン空に上がっていく。
雲を突き抜け大気圏を越えて宇宙に飛び出した!
猛スピードで地球から遠ざかる。
「地球よ、さようなら。」

目の前に赤い惑星が近付いてきた。
火星だ!
僕の身体は、赤い火の玉になり火星の砂漠にめり込んだ!
「急ブレーキをかければ良かったのに・・・。」
後悔しても、後の祭りだった。

僕は、火星の砂漠に埋まった人間豆になった。
やがて人類は、此処へやって来るだろう。
その時、誰かが僕を発見するのだ。
「きっと驚くだろうな。」
そう考えると、また愉快な気分が戻ってきた。


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