仮面戦士アワジ


静の里公園

淡路島の津名町に「静(しずか)の里公園」がある。

ここに津名町でその生涯を終えたと言われる静御前の墓が奉られている。
ふるさと創世資金の1億円で購入した金塊が展示されていることでも有名だ。

ここの公園は、その名の通り静かで、俺は、昼休み、
近くのコンビニで弁当を買いベンチに座って食べるのが日課になっている。

(ちなみに駐車場を挟んで、津名町の図書館もある。)


日差しのポカポカした良い天気だ。
おっと、俺のことを話すのを忘れていた。
俺は、皆本芳恒(みなもとよしつね)、30歳、独身だ。
彼女居ない歴も30年だ。(笑うなよ!)
近くの鉄工所で働いている。
洲本実業機械科卒業だから、まあ、当たり前のコースを歩んだわけだ。





今日も今日とて、俺は、静の里公園で弁当を食べていた。

此処には、沢山の鳥やら鯉が飼われている。
中でも目を引くのは、同じ檻に入れられている犬と猿だ。
「犬猿の仲よし」という看板が立てられている。

『おい!』
何処かで声がした。
辺りを見回しても誰も居ない。
『おい!そこのしょぼくれた男!』
しょぼくれた男!俺に間違いない!誰が俺を呼んでいるのだ!?
声のする方を見ると例の「犬猿の仲よし」の檻しかない。
俺は、食べかけの弁当をベンチに置いて、檻に近付いた。
『やっと気付いたか、バカめ!』
おいおい、嘘やろ!猿が喋っとるやんけ!

「おい!猿!お前、人間に向かって生意気やぞ!
猿のクセに言葉も喋るし。」
『バカにバカと言って、何が悪い!このバカめ!』
「くっそー、ますます生意気な猿じゃ!檻から出てこい!俺と勝負せえ!」
『ケケッ!ワシを檻から出せるものなら出してみろ!この、しょぼくれ男!』
檻には鍵が掛けられている。
これぐらい工場にある工具で簡単に壊せるのだ。
機械科出身をなめるなよ!

頭に血が上った俺は、車を吹っ飛ばし、工場へ戻ると工具を持って猿の檻に戻った。
「ちょっとキミ、何をする気だね?」
警備員に呼び止められた。
おっとっと、考えてみると、俺は、猿の口車に乗って、あやうく犯罪者になるところだった。

『ケッケッケッ!単純な奴だ!退屈しのぎになったわ!』
猿が笑っている。
何とも人の悪い猿だ。いや、猿の悪い猿だ。

『おい、しょぼくれ男!お前に良い物をやろう。』
もう、猿に遊ばれてたまるか!
俺が無視しても猿は、言葉を続けた。
『そこに奇妙な形をした石があるじゃろ?』
陰陽石という奇妙と言うより卑わいな形をした大きな石が置かれている。
『その石の割れ目を指でなぞってみい。』
あの卑わいな石の割れ目を指でなぞる!?
誰かに見られたら変態だと思われるだろ!
まあ、乗りかかった船だ。
何も起きなかったら、今度こそ、生意気な猿をタコ殴りしてやろう。

陰陽石

俺は、辺りの様子を伺いながら、陰陽石の割れ目に指を這わせた。

ボコッ!と音がして、下から直径5p程の丸い石が転がってきた。

『おのころストーンじゃ。お前にやろう。』
「おのころストーン?」
『またの名を賢者の石とも言う。』
気が付くと、もう昼休みは過ぎている。
俺は、その石を手に取ると大急ぎで工場に戻った。













その夜、アパートの自分の部屋で、マジマジと例の石を眺めた。

おのころストーン?賢者の石?
石を握っていると、突然熱を帯び始めた。
パカッと石が二つに割れ、中から水晶の皿のような物が出てきた。
結構、値打ちのある宝石かもしれない。

俺は、秘密にしているが子供の頃から変身ヒーローが好きだった。
こういう石を装着している変身ベルトがあったことを思い出した。
ベルトを細工して自家製の変身ベルトを作った。
それを腰に巻くとヒーロー気分になった。
30歳にもなって恥ずかしいって?
男は、永遠に少年なんだよ。

一人でだんだん盛り上がってきた。
俺は、単純な性格なのだ。
ついポーズをとって、やってしまった。
「変身!」

その瞬間、装着した石が輝き、その光が俺の身体を包んだ。
光が収まり、鏡を覗き込んだ目に飛び込んできたのは全身、鉄のウロコに覆われたような
異形の姿になった俺だった。
俺は、変身したのだ!
その姿のまま、夜の街に飛び出した。
淡路島の夜は、人通りが全く無いのだ。

身体が軽い!見た目は、鉄の塊なのに羽が生えた様にフワフワしている!
試しにジャンプをしてみると、ゆうに10メートルは飛んでいる。
「イヤッホーゥ!」
あの猿に礼を言わなければいけない。
静の里公園に向かってダッシュだ!

入り口から、ジャンプをすれば檻の前に行けた。
夜間セキュリティも簡単に抜けられたのだ。

「おい、猿!起きとるか?」
『おお、しょぼくれ男じゃな。』
「俺は、あの石の力で変身したんや。一体、あの石は何やねん?」
『おのころストーンは、空中にある元素を集めて、どんな物でも作り出せる石じゃ。
その昔、古事記にも書かれているように淡路島を中心に日本列島が作られた。
それは、おのころストーンの力を使ったからじゃ。』
「お前、何で、そんな事を知っとるんや?何者なんや?」
『ワシか?ワシは、門(モン)。時代の扉を守る者じゃ。』

1億円の金塊


猿のモンちゃんは、ニヤリと笑って話を続けた。

『ところで、お前は、その力を何に使う?
ほれ、そこに1億円の金塊が有るぞ。
今のお前なら簡単に奪うことが出来るんじゃないのか?』

1億円!
それだけあれば良い車も買える。
良いマンションに住める、いや、良い家が買える。
俺が欲しい物は、全て手に入るだろう。

しかし、俺は、モンちゃんに胸を張って答えた。
「俺は、この力を正義の為に使うんや。」
『キキキッ!そう言うと思ったよ。』
モンちゃんは、さも満足したように笑った。





かくして、俺は、変身ヒーロー、仮面戦士アワジになった。

悪の軍団、ドーンと来いだ!
しかし、俺は忘れていた。
変身ヒーローが架空の存在であるのと同じく、悪の軍団も存在しないことを・・・。

俺は、ストレスを発散するように変身して夜の津名町を駆け回った。
何処でバレたのか、ある日、津名町長の桂木さんから電話がかかってきた。
「あなたが仮面戦士アワジですね。
ワールドカップのイングランドチームに続いて、変身ヒーローまで津名町に来てくれるとは
何とも目出度い!是非、津名町の為に働いて頂きたい!」

それから、俺の変身能力を充分に使える仕事が見つかった。
それは、遊園地ワールドパークONOKOROの変身ヒーローショーだった。



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