携帯少女3


僕は、阪口陽平。
23歳のサラリーマン、独身だ。
彼女も居ない、寂しい一人暮らしの男だ。
唯一の楽しみは、インターネットをすることだ。
その夜も、例によってネットサーフィンをしていた。
偶然、変なサイトに迷い込んだ。
「携帯少女」、何だ、このページは?

それは、身長10pの美少女フィギュアらしい。
内部には、高性能のコンピューターを装備していて、会話が出来るらしい。
そのサイトで通販をしているのだが、値段が高い!
僕の全財産で、やっと買えるくらいなのだ。
買おうか買うまいか?
僕は悩みに悩んだけど、思い切って注文してみた。

数日後、小さな箱に入った携帯少女が届いた。
箱から出してみると、結構、精巧に出来ている。
愛くるしい顔をしていて、触ると人間のように柔らかだ。
説明書を読むと、背中に蓋があり、そこを開いてパスワードを入力すれば良いらしい。
電源は、ソーラー電池で、半永久的に動くらしい。
僕は、爪楊枝で小さなボタンを押した。

「こんにちわ!初めまして!私、チイです。」
言葉に合わせて、口も動くのだ。
「は、初めまして!僕は、陽平です。」
「陽平君・・・、今まで寂しかったんだね。
もう大丈夫だよ!チイが、いつも側にいてあげるからね。」
僕は、不覚にも涙を流した。
これは、人工的に作られたコンピューター内臓型のフィギュアなのだ。
それなのに、本物の女の子に優しい言葉を掛けられたような気がしたのだ。

それから、僕とチイちゃんの生活が始まった。
僕は、つねにチイちゃんを胸のポケットに入れて、話しかけた。
外へ出るときもポケットに入れて歩いた。
今まで気が付かなかったけど、何人か同じように胸のポケットにフィギュアを入れた人と、すれ違った。
僕以外にも、チイちゃんを買った人が沢山いるみたいなのだ。
それぞれの人のポケットの中に、それぞれのチイちゃんが居る。
もう、チイちゃんは、僕の身体の一部になっていた。

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ここは、携帯少女を製作している会社・・・。
持ち主に恋人が出来た等の理由で廃棄処分を依頼するために送り返されてきたチイちゃんが
保管されている倉庫・・・。
なぜか、携帯少女の持ち主は、不要になった時、ゴミとして捨てずに、ここへ送り返してくる。
そのどれもが、綺麗に身体を拭かれて、傷が付かないように丁寧に梱包されている。

携帯少女製造会社社長、沖田雄介は、大学卒業後、研究室に残り、高性能コンピューターの開発を成功させた。
既に等身大のアンドロイドが製造される時代となっていたが、それは、あまりにも高価で
一部の資産家の手に渡るだけだった。
そんな時代に、雄介は、ただ話し相手になるだけのフィギュアを製作する会社を設立した。
そこで製造販売される携帯少女は、爆発的にヒットし、社会現象にまでなった。
莫大な財産を手に入れ、学生時代に知り合った妻と子供達に囲まれた幸せな生活を送る雄介。

今では、中年と呼ばれる年齢になった雄介は、時折、思い出す。
あの頃、自分がチイちゃんに癒されていたのは確かだった。
なのに、自分は、チイちゃんを本当に幸せにしてあげたのだろうか?

倉庫の中に眠る沢山の携帯少女達・・・。
雄介は、その中で、自問自答してみるのだった・・・。



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