携帯少女2


俺と携帯少女チイちゃんとの生活も、随分、長くなる。
チイちゃんは、俺が大学から帰るまで、ずっと部屋で待っていてくれる。
待っていてくれる人が居るというのは嬉しいものなのだ。

俺がレンタルで借りたビデオをチイちゃんは、俺の胸のポケットの中で見ている。
チイちゃんは、泣ける映画が好きだった。
チイちゃんが泣いていると、俺の胸の中が震えるので、よく分かったのだ。

春になり、俺の通う大学にも沢山の新入生が入ってきた。
相変わらず人付き合いの苦手な俺は、授業が終わると直ぐにアパートに帰った。
友達を作り、部屋に遊びに来るとチイちゃんを見られてしまう。
俺は、それを恐れた。

ある日、チイちゃんは、俺に尋ねた。
「雄介君って、友達が居ないの?」
「ああ。人と付き合うなんて邪魔くさいだけだよ。
他人なんて傷つけたり傷つけられたりするだけさ。
俺は、チイちゃんが側に居れば、それで良いんだよ!」
「あのね・・・、チイはね、雄介君に幸せになってほしいんだよ。
チイのせいで、雄介君が自分の殻に閉じこもるんなら、チイは、サヨナラするよ。」
「えっ!?」
それは、意外な言葉だった。
チイちゃんは、いつまでも俺と二人だけの生活を続けたいと思っていると決めつけていたからだ。

俺は、勇気を出してコンビニでアルバイトを始めた。
生活するだけなら、親からの仕送りだけで充分だったが、生活を変えたいと思ったのだ。
俺は、そこで一人の女の子と知り合った。
生まれて初めて彼女が出来たのだ。
俺は、チイちゃんの存在を疎ましく思い始めていた。
「あんな得体の知れない生き物なんか居なくなればいい!」と思ったのだ。

チイちゃんは、俺のそんな気持ちを敏感に察していた。
バイト先から帰ると、チイちゃんは、俺が部屋に置き忘れた携帯電話の前に立っていた。

「チイちゃん、何をしてるんだ?」
俺が驚いて訊ねると、チイちゃんは、にこやかに笑っていた。
「雄介君、もうサヨナラだよ。
チイは、幸せだったよ。
雄介君とお話ししたり、ビデオを見たり、雄介君のポケットの中で幸せだったよ。」
「おい!チイちゃん!何を言ってるんだ?」
「サヨナラ!」
チイちゃんは、携帯電話の画面に飛び込んで消えてしまった。
最後まで笑顔だった。
でも、俺は、見つけた。
チイちゃんの為に買った人形の家に小さな水たまりがあるのを。
それは、チイちゃんが流した沢山の涙だった・・・。

携帯少女3へ続く



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