やったじゃん!



俺達がよく行く若者向きなカフェバーに、変なオッサンがやってくる。
歳は、50歳ぐらいだろうか?
身なりは、きちんとしている。
変なのは、その行動だ。
店にいる若者達に、やたら話しかけてくる。
そして、「やったじゃん!」と大げさに叫ぶとニコニコしながら握手を求めてくるのだ。
皆、どう対処していいのか困っている。
別に危害を加えてくるわけでは無いからだ。
ただ、「うざい」だけなのだ。

その日も、俺は友人達と楽しく飲んでいた。
そこへ「やったじゃん!」が近付いてきた。
うざい!うっとおしい!
俺は、とうとうブチ切れた。
「オッサン!何で、この店に来るの?
みんな迷惑してるんだよ!
オッサンは、オッサンの集まる店に行けば良いんだよ!」
「やったじゃん!」は、一瞬驚いた様な顔をして何か言いたそうにしていたが
俺が無視をすると淋しそうに店を出ていった。
言い過ぎたかな?とも思ったけど、みんなの気持ちを代弁しただけのことだ。
その証拠に、オッサンが店を出ていくと店長も他の客達も俺に拍手をした。

俺は、相変わらず店に通い、そこで彼女を見つけた。
お互いの家にも遊びに行き、いわゆる家族公認の仲になった。
二階にある彼女の部屋で俺は、何気なく卒業アルバムを手に取った。
ページをめくって見覚えのある顔を見つけた。
「やったじゃん!」だ!
コーヒーを持って戻ってきた彼女に尋ねた。
「この人、知ってるのか!」
「えっ?その人、私の中学時代の担任の先生だよ。
今は、学校を辞めてるみたいだけど。」
「まだ定年じゃないだろ?」
「熱心な先生だったけど、息子さんが受験に失敗して自殺したの。
それで、学校も辞めて家に引きこもってたらしいよ。」

「やったじゃん!」は、なぜ若者の集まるカフェバーに出入りしてたのか?
なぜ、ささいなことに「やったじゃん!」と大げさに喜んだのか?
俺達に何を言いたかったのか?

「この先生の住所、分かる?」
「アルバムに住所録が載ってるけど。」
「なあ、今度、この先生に会いに行ってみない?」

俺は、彼女と「やったじゃん!」に会いに行こうと思った。
そして、俺達は、もうすぐ結婚すると言うつもりだ。
「やったじゃん!」は、また、「やったじゃん!」と喜んでくれるだろうか?



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