タンポポ2
負けないで



昼下がり・・・、
マリンちゃんが、店に向かって歩いていると、路地の方から
うなり声が聞こえてきました。
恐る恐るマリンちゃんが近付くと若い男が血だらけになって倒れていました。

「どうしたんですか!?」
「あ、いや・・・、ちょっとケンカで・・・。」
「大丈夫ですか?起きれますか?
私、これからお店に行くところなんですけど、そこで手当をしますから・・・。」

男は、マリンちゃんに身体を支えられて「エンジェル」に連れていかれました。
店長は、驚きました。
「マリンちゃん、何かあったのか!?
トラブルは御免だぞ!」
「あ、店長、何でもないの。ちょっと場所を借りるね。」

マリンちゃんは、男を客待ちの部屋に連れていくと救急箱から薬を出して
手当をしてあげました。
「どうしてケンカなんかしたの?」
「俺・・・、会社をクビになっちゃって、職安に通って就職活動したんだけど
どこにも採用されなくて・・・。
ヤケになって酒を飲んで酔っぱらって歌舞伎町を歩いてたらチンピラにからまれて・・・。」
「そうだったの・・・。お仕事を探してたの・・・。
ねえ、ここじゃダメ?」
男は、驚いた。
「えーっ!!ここって、ソープランドだろ!?俺、男だぜ!!」

マリンちゃんは、店長のところへ走りました。
「店長、このお店って男手が少ないよね。」
「えっ?まあ、求人はしてるけど、こういう仕事を嫌がる奴って多いからなあ。」
「そこで、相談なんだけど、さっきの人、ここで雇ってもらえないかな?」
「まあ、本人にやる気があるならいいけどね。
でも、ヤバイ奴じゃないよね。」
「大丈夫!私が保証人になるから!」

今度は、男の所へ走るマリンちゃん。
「話はついたからね。飲んだくれてるより良いよね?」
「ソープの店員かー。まあ、良いか!」

それから、その男は、「エンジェル」の店員になりました。
名前は、小原です。


今日も、マリンちゃんの常連客が沢山やってきました。
その一人、吉沢は40歳ぐらいのサラリーマン風の男で
三日と空けずにマリンちゃんのところに通っていました。

「吉沢さん、通ってくれるのは嬉しいけどお金大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫!!
俺って、実は会社の重役なんだよ。
金なら腐るほどあるのさ!わっはっは!」

吉沢が帰った後、小原がマリンちゃんの部屋に入ってきました。
「マリンちゃん、今、いいっすか?」
「小原君、何?」
「さっきのお客さん、実は俺、職安で何度も見てるんすよ。
サラ金会社から出てくるのも見てるんすよ。
多分、借金でここへ通ってると思うんすよ。」
「ええっ!?それ本当なの!?」

三日後、また吉沢はやってきました。
「おー、マリンちゃん!また愛し合おうぜベイビー!」
マリンちゃんは、露骨に嫌な顔をしました。
「また、来たのオジサン。
あ〜あ、女の子もお客さんを選べたらいいのにな〜!」
「な・・・、何を言ってるんだよ?」
「あなたねー、自分の歳を考えたことがあるの?
こんなジジイに抱かれるなんて、私って可哀想!」
「な・・・、何だよ!金で買われる女の癖に、その言いぐさは何だよ!?
こんな店、二度と来るか!バカヤロー!」
吉沢は、怒って帰ってしまいました。
心配した小原が、マリンちゃんの部屋を覗くとマリンちゃんはベッドに俯せて泣いていました。

数日後、小原は、仕事が休みで歌舞伎町をぶらついていました。
ソープ街へ歩いていく吉沢を見つけ、小原は呼び止めました。
「吉沢さん。」
「えっ。あー、君はエンジェルの店員だね。
ふん!お前の店なんか行かないよ!
あんなマリンの店なんか二度と行くもんか!
俺は、これからキャサリンちゃんのところへ行くのさ!」

それを聞いて小原は、思わず吉沢を殴りつけました。
「おい!おっさん、よく聴け!
俺は、あんたが失業中で、サラ金から借金しまくってることを知ってるんだよ!
それを俺は、マリンちゃんに教えた!
だから、マリンちゃんは、あんたの為を思ってワザとあんたに嫌われることをしたんだよ!
それを何だ!この野郎!」
なおも殴りかかろうとする小原を通行人達が止めました。
吉沢は、俯いて立ち去りました。

数日後、店の前を掃除している小原の前に吉沢がやってきました。
「何だよ、オッサン!」
「マリンちゃんに伝えて欲しいことがあるんだ。
絶対、立ち直る!ありがとう!
それだけだ。」
吉沢は、帰っていきました。

それを聞いたマリンちゃんは、笑顔で呟きました。
「頑張れ、頑張れ、吉沢さん。頑張れ、頑張れ・・・。」

小原は、表へ出て掃除を続けました。
「頑張れ、頑張れ。」と呟きながら・・・。


タンポポ3へ続く



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