運命


Kは、昭和3年に淡路島に生まれた。
10人兄弟の真ん中で、小学校を卒業すると呉服屋に丁稚奉公に行かされた。
成人すると、大卒の人に混じって警察学校に入り、一番の成績で警察官になった。
19歳の時に結婚していたのだが、男の子と女の子、生まれた子供が死んでいた。
夫婦仲も悪くなり、近所のスナックで働く女性と暮らし始める。
それを地元のゴシップ新聞に書かれ、警官を辞めることになる。
大阪に引越し、親戚の会社で営業をやったりするが続かず、職を転々とする。
2番目の妻とも別れ、工事現場で働いたりしていたが仕事中に怪我をして
土方の仕事が出来なくなる。
小さな頃亡くした父親の法事もあり、連絡を絶っていた実家へ帰る。
すると初対面の兄の子供たちに懐かれてしまい子守りもかねて実家の仕事を手伝う事になる。
仕事は、金属や紙、布を買い取る仕事で「ボロ屋」と呼ばれていた。
家の仕事が嫌だったKは、しばらくしたら大阪に戻るつもりだった。

T子は、昭和13年に生まれた。
生まれて間もなく文楽の人形遣いの家の養女になる。
だから、本当の親も兄弟も知らない。
淡路島に住む育ての母の兄が病気になり、その看病のために大阪から淡路島へ。
その間に、育ての父は、楽屋でお茶を出していた女の人と浮気をしていて大阪に帰れなくなる。
中学校を卒業後、神戸の三宮で美容師の修行をして淡路島に戻り、美容院で働き始める。
当時は、髪の毛も「ボロ屋」で買い取っていたのでT子は、同僚とともに髪の毛を売りに行く。
そこで、大阪から帰って来ていたKと知り合い、一目惚れしてしまう。
T子は、当時としては、モダンガールでダンスを習ったり、キャバレーで歌を歌ってお小遣いを
稼いだりしていた。

T子は、勇気を出してKに電話を掛ける。
Kからすれば、派手な女が髪の毛を売りに来ているぐらいにしか思っていなかった。
「一緒にダンス、踊りませんか?」「そんなん、せん!」
「お酒飲みませんか?」「わしゃ、酒、飲まん!」
「何だったら付き合ってくれますか?」「わしゃ、甘いモン好きや。」
「それなら、ぜんざい、食べませんか?」「それやったら、ええ!」

KとT子は、交際を始める。
やがて、T子から、過去に妻子ある男性の子供を堕胎している事を告白されたKは、
「可哀想や!」と号泣する。
その時、T子は、「こんな優しい人が世の中に居るのか?」と、ますますKを好きになる。

淡路島の漁師町で、実家の支店みたいな存在だった店が閉じる事になる。
そこへ、代わりに行って店を継がないかと言う事となる。
KとT子は、式は上げていないが正式に結婚し、T子は、トランクと風呂敷づつみだけ持ち、
Kの所へ転がり込んだ。

よそ者に冷たい漁師町で、KとT子は、暮らし始める。
タバコ屋で間借りして、Kは、自転車にリヤカーを付けて引きクズ鉄の買取りを始める。
近所で借家が空き、そこへ夫婦で引っ越す。

昭和37年、その家で、産婆さんに男の子が取り上げられ生まれる。
それが、僕だ!



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