謎の男達



ケンカしようぜ!
小学校低学年の時、帰り道で、ランドセルをトントンとたたかれた。
振り向くと、見たこともない男が立っていた。
多分、同じ年頃だと思うが・・・。
彼は、いきなり「ケンカせんか!」と言った。
そして、格好良くファイティングポーズをとった。
僕は、何が何やら解らなかったが、同じように構えた。
すれ違う上級生が、愉快そうに「おっ!かっこいい!
あしたのジョーみたいじゃ!」とはやし立てた。
しばらく睨み合ってたが、彼は、いきなり「今日は、ここまでにせんか!」と
ニコニコしながら言い、帰っていった。
その後も、彼に会うたびにケンカに誘われた。
そのたびに、また、ニコニコと帰っていった。
僕は、いつも、狐に摘まれたように、ポカンと立ちつくしていた。
あれは、一体、何だったんだろうか?


俺は優作
僕は、高校卒業後、大阪の難波にある製パン会社に就職した。
そこでは、ビルの何室かを借り、会社の寮として使っていた。
僕も、そこに入っていたのだが、ある日、途中入社で一人の男が入居してきた。
彼は、夜でもサングラスをかけていた。
そして、言うのだ。
「僕って、松田優作に似てない?」
言われてみれば、髪型や顔立ちが似ている。
「おぉー、よう、似とるわ。」と言うと、満足そうな顔をするのだ。
職場が違ったので、夜に寮でしか会えなかったが、僕と同室のY君は、彼にお金を出させて
1リットルのコーラやファンタを買わせたりしていた。
原液のまま半分飲み、後は、水で薄めて水割りにして飲んだ。
それぐらい、我々は、お金が無かった。
僕は、そこの会社を半年で辞めたのだが、Y君に聞くと、優作君も僕の後を追うように
辞めてしまったらしい。
彼は、今も、松田優作に成りきっているのだろうか?


パンツあげるわ
会社の帰り、僕は、駅のホームに立っていた。
30歳ぐらいの男が近づいて来た。
男は、いきなり言った。
「僕のパンツ、いらへん?」
「えっ?」
「キミに、僕のパンツあげるわ。
パンツ言うても、テニスするとき履くやつやけどな。
僕、サラのやつ買うたから、キミに、古い方あげるわ。」
「そんなん、いりませんよ!」と、僕は、きっぱりと言った。
電車に乗っても、男は、なおも食い下がってきた。
「えーパンツやで。何でいらんの?」
あまりのひつこさにムカッときて、黙って男を睨み付けた。
男は、寂しそうに離れて行った。
今思えば、なぜ、そんなことを言うのか、理由だけでも
聞いてあげても良かったかと思う。



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