太鼓饅頭



僕の田舎では、回転焼きのことを「太鼓饅頭」と言う。
太鼓のような形をしているからだろう。

僕が、子供の頃、「観音さんのおばちゃん」と呼ばれる人が屋台を引いていた。
学校帰りに観音さんのおばちゃんの屋台を見つけると、僕は飛んで帰ってお小遣いをもらい、
観音さんのおばちゃんの屋台に走った。
その屋台では、夏は、水くさいコーヒー、トコロテン、水飴が売られ、
冬は、たこ焼き、太鼓饅頭が売られていたのだ。
その太鼓饅頭も、砂糖が入った安い物と少し高い餡が入っている物が売られていた。
僕は、例え高くても餡の物を買った。
寒い冬にアツアツの太鼓饅頭を口いっぱいに頬張る。
まさに極楽という感じだった。

高校生の頃、僕は自転車通学をしていた。
帰り道に太鼓饅頭を売っている店があった。
僕は、いつも2個買って、学生服のポケットに入れた。
ホカホカでカイロみたいだった。
それをポケットから出し、片手運転をし、食べながら帰る。
帰宅するまでに2個とも食べてしまわないといけない。
まだ小さかった妹が、「くれ!」と言うからだ。
暗い夜道を片手運転で走る。
危なくなったら太鼓饅頭をくわえて走る。
車のライトに照らされたその姿は、かなり怖い物があったのではないか?

大人になってから、妹と「観音さんのおばちゃん」の話をした。
僕は、ずっと観音さんを祭ってある祠の近くに住んでるから「観音さんのおばちゃん」と呼ばれていると
思っていたのだが違った。
「観音さん」では無く「カンノ」という名字のおばちゃんだったのだ。
「カンノさんのおばちゃん」だったのだ。

カンノさんのおばちゃんは、今も御健在なのだろうか?



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