脱輪



僕は、独身だけど、町営住宅に住んでいるので町内会の世話役の当番が廻ってくる。
世話役といっても同じ棟の10部屋の代表になって回覧板を廻したり
募金を集めたり、雑用をするだけなのだが。

団地に引っ越して2年目で、その当番が廻ってきた。
1998年4月5日、明石海峡大橋が開通した日だ。
まず顔見せということで集会場に集まることになった。
日曜日の夕方。
場所も、おぼろげにしか分からない。
それなのに車で行ったのが悪かった。
曲がるべき場所を通り過ぎてしまったのだ。
Uターンするために国道へ上がる小道へ入り、農道らしき狭い道にバックで入った。
すると、そこに草に覆われた溝があったのだ!脱輪してしまった!
後ろのタイヤが溝から出なくなったのだ!

車をジャッキで上げてタイヤの下に石を置いても、石をはじき飛ばすだけだった。
何台も車が側を通ったが、見て見ぬ振りをされた。
公衆電話から集会場に電話する。
「それは大変ですねー。頑張って下さい。」と冷たく言われる。

近くの商店に駆け込む。
「あそこで皆、よくやるんや。」と言われ知り合いのモーターショップ何軒かに電話をしてくれたが、
どこも日曜で休みだった。
「取り敢えず行きましょか?」と、そこの主人は、軽トラを出してくれて現場まで行ってくれた。

4月とはいえ辺りは、直ぐに暗くなった。
おまけに寒い。
真っ暗の中で男2人、悪戦苦闘をした。
それでも車は、びくともしなかった。

「手伝いましょか?」と声がした。
見ると、いかにも暴走族風の若い兄ちゃんが車から降りてきた。
車のライトがついてるので、もしかしたらと思って、わざわざ此処まで来てくれたのだ。
車には、これまたヤンキーみたいな奥さんと子供が乗っていた。
商店の主人と兄ちゃんに後ろから押してもらうと、あっけなく車は溝から出た。
兄ちゃんは、「こういうときはサイドブレーキ引いたらええんや。」と言った。
さらに乗用車に乗ったおばさんも「どないしました?」とやってきた。

「助かりました!ありがとうございました!」と皆に頭を下げて車を出す。
集会場に行くと、もう皆帰っていて電気も消えていた。
SATYでお礼のお菓子の詰め合わせを買って商店に礼に行く。
ふと見ると同じ様な品が商店に並んでいた。



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