少年時代



ベントラ
「アフタヌーンショー」という昼の番組でUFO特集をやっていた。
数人が外向きに輪になり手を繋ぎ、空に向かってテレパシーを送ればUFOが呼べると言うのだ。
そのとき「ベントラ、ベントラ、我々のテレパシーが通じたら、我々の前に姿を現して下さい。」と心で
念じれば良いと言う。
ベントラと言うのは、宇宙語でUFOのことらしい。
僕は、興奮して近所の歳の近い子供達に「アフタヌーンショー見たか?」と聞いた。
すると彼等も「見た!」と言う。
話は、早かった。
僕達も、UFOを呼ぼうということになり近所の子供達が夜に集合した。
駐車場に数人の子供達が輪になり手を繋ぎ空に向かってテレパシーを送った。
「ベントラ、ベントラ、我々のテレパシーが通じたら、我々の前に姿を現して下さい。」
すると妙な飛び方をする飛行物体が現れた。UFOだ!
僕達は、大興奮した!
それは雲の切れ間に見え隠れする飛行機であったかもしれないし、夜間飛行するヘリコブターで
あったかもしれない。
それでも、それは子供時代の僕達にとってはUFO、ベントラだったのだ。
それからも僕達は、「ベントラせんか!」と声を掛け合いUFOを呼んだ。
そして、お菓子を持ち寄り、ムシロを敷いてパーティをした。
段々と、目的は、パーティ主体になってきてベントラは終わった。


光速チーム
子供の時から、変身ヒーロー物が好きだった。
僕達の世代には、そういう人が多い。
小学3年生ぐらいのときテレビで「仮面ライダー」が始まった。
たちまち、大ブームが巻きおこった!
2階の窓から「トゥ!」と叫びながら飛び降りて足を骨折する子供が続出した。
学校の朝礼の時にも「危ないところで仮面ライダーごっこをするのをやめよう!」と校長先生に言われたりした。
同級生のS谷は、家が裕福だった。
「ライダースナック」の仮面ライダーカードを全部揃えていてファイルに入れていた。
それにS谷は、ライダー情報が早かった。
その秘密は、「テレビマガジン」と「テレビランド」に有ると知った僕は、親に頼んで毎月買ってもらい始めた。
その「テレビマガジン」で少年仮面ライダー隊の隊員を募集していた。
これまた、親に頼んで申し込んでもらった。
僕は、少年仮面ライダー隊の隊員になったのだ!
S谷に話すと、彼は、まだ申し込んでいなかった。
「勝った!」
S谷も早速、隊員に申し込み、僕達は共にショッカーと戦う決意をした。
僕は、本気で仮面ライダーになろうと思った。
2号ライダーから変身ポーズをやりはじめると僕も日課のように真似をした。
1日に何十回も「変身!」をした。
そのうち1回ぐらい本当に変身できると思っていた。
学校に蓋の付いたコンセントがあった。
僕は、それを正義の秘密基地に通じる無線機だと信じた。
誰も居ないことを確かめてから、毎日蓋を開けて「僕を仮面ライダーにしてください!」と頼んだ。
何も努力しなければ変身ヒーローにはなれないと思った。
僕は、S谷、他数人と「光速チーム」という正義の味方団体を作った。
学校が終わると光速チームは、崖をよじ登ったり、川をさかのぼり水源地まで冒険したりの特訓を始めた。
皆、本気で正義の味方になろうと思っていた。
やがてS谷ともクラスが別れ、遊ぶこともなくなり光速チームは解散した。


初恋
小学3年生の2学期に大阪から女の子が転校してきた。
サヨミちゃんだ。
身体の小さな女の子だったが、やたら元気な子だった。
大声で笑い、大声で泣く子だった。
都会の子だったので、何となく服装のセンスも良かった。
ただ、やたらに「淡路島は田舎で面白くない。」と言っていたので周りの反感も買っていた。
ある日のこと、下校するサヨミちゃんを見かけた。
僕は、その寂しそうな姿に驚いた。
いつも元気いっぱいの女の子なのに、なぜ?
僕は、同級生の話に聞き耳を立てた。
それによると、サヨミちゃんは、お母さんと二人暮らしだと言う。
親戚を頼って淡路島に引っ越して来たということだったが、それはお母さんの実家みたいだった。
つまり親が離婚したのか、お父さんが亡くなったのかで、お母さんが実家に帰ってきたのだ。
僕は、次第にサヨミちゃんを意識しだした。
そのころ同級生の間で、好きな子が誰なのか言い合うのが流行った。
僕は、自分は、サヨミちゃんが好きなのだと確信した。
一方、彼女の方は、クラスの番長格の男、T中(コーちゃん)が好きだと噂になった。
フォーリーブスの北浩二に引っかけて「コーちゃん好き!」と自分で言いまくっていた。
僕は、何とかしてサヨミちゃんの気を引きたかった。
小柳ルミ子が好きだと聞けば、本当は、天地真理の方が好きな癖に小柳ルミ子のグッズを集めた。
それでも普通に話しかけたりは出来なかった。
そこで、僕がとった行動は意地悪をすることだった。
定規や消しゴムを取って「やーい!」と言って追いかけてもらった。
僕は、完全にサヨミちゃんに嫌われた。
学校の外で会っても、海水浴をしてるときに会っても「イヤミよ!」と吐き捨てるように言われ睨まれた。
小学4年生の2学期が始まったとき、サヨミちゃんが登校してこなかった。
何の予告もなく大阪に帰ってしまったのだ。
僕は、家の前の浜に出て、遠くに見える大阪を眺めた。
そして、当時の流行歌の「あなた」の部分を「サヨミ」に置き換えて口ずさんだ。
同級生に頼み、サヨミちゃんの大阪での住所を聞き手紙を出そうとしたが勇気がなかった。
数ヶ月後、学校にサヨミちゃんがひょっこり顔を出した。
当時、流行っていた桜田淳子みたいなエンジェルハットを被っていた。
強烈に可愛かった!
僕は、もう会うことがないと安心していたので「サヨミちゃんが好きだった。」と言いまくっていた。
皆、僕の腕を掴んで「○○ー!A野、○○の事、好きなんやでー!」と言いながら
サヨミちゃんの前に引っ張っていこうとした。
僕は、激しく抵抗した。
サヨミちゃんは、別人のように恥ずかしそうな顔をしていた。
僕は、心の底から嫌われてはいなかったのだ!
それから、サヨミちゃんの姿を見ることも無く、消息も知らない。



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