鶴光劇団



イベント情報誌「Lマガジン」で落語家の笑福亭鶴光さんが劇団員を募集している広告を見つけた。
鶴光さんと言えば、学生時代、「ヤングタウン」や「オールナイトニッポン」を聴いていたので
僕にとっては落語家というよりラジオのDJとしてのイメージの方が強い。
「面白そうやんけ!」
オーディションが行われる鶴光さんの家「スタジオ笑福亭」は僕が住んでいた千里丘にあり
何度も前を通ったことがあった。
近所だし、鶴光さんに会えるかも知れない、丁度僕は失業中だったので早速申し込んだ。

1986年12月28日
千里丘駅(当時は、まだ国鉄だった。)で劇団員らしい中学生ぐらいの女の子に地図をもらい
スタジオ笑福亭へ。
受付は11時から12時までだったが、僕は11時過ぎに入った。
既にホストみたいな軟派な男が来ていてフローリングの床に座り込み
劇団員の女の子と笑いながら話していた。
受験料として1,000円を払い、アンケート用紙に記入。
今までの演劇経験とか好きな音楽のジャンルとか・・・。
次々と人が集まってきて15人程になった。
僕の受験番号は4番だった。
試験は12時から始まった。

劇団員の人が前に机を置いて座り、1人づつ前に出て面接されるのだ。
鶴光さんの奥さんも見学に来たが鶴光さんは仕事で来なかった。
皆、そうそうたる経歴の持ち主で子供の頃から児童劇団に入っていたとか言っている。
僕の番だ!スゲー緊張!
「好きな音楽、ニューミュージック?ウチは演歌の方がえーんやけどなぁ。」と言われた。
僕は、演劇経験なんか無いので、50音を大声で言わされた。
他の人は、パントマイムをやらされていた。
「100メートル先のおじいさんに道を尋ねる。」
「道を歩いていて落とし物を拾う。(財布、トランク、ハンドバック、金。)」
「道を歩いていて知り合いと思い振り返るが人違い。」
「合格発表の日に自分の番号を探して番号があった。」
「朝出かけに朝寝坊してしまった。」
「お腹が空いている。」
「水が入ったバケツを左側に運び空のバケツを下げて右側に戻る。」
「川の向こうにいる人に大声で声をかける。」
「身体を回転させるたびに楽しい顔、悲しい顔、怒った顔、苦しい顔をする。」

こう書くと、緊張感の張りつめたオーディションという感じがするが、実は爆笑の連続だったのだ。
「今まで劇団で何を勉強してきたんや!?」という感じ。
パントマイムなのに、いきなり大声で「おーい!」という奴。
表情を変えないといけないのに全部ハニワの様に無表情な奴。
鶴光劇団のオーディションと言うより吉本新喜劇みたいだった。
皆、真剣だから余計に面白かったのだ。

劇団の人の話によると、昔は吉本みたいな劇をやっていたらしいが
今は、顔を白塗りにして大衆演劇をやっているらしい。
鶴光さんも浪速三之助一座に入って修行中だと言う。
いつ仕事が入るか分からないので、ずっと劇団事務所にいなければ何時までも仕事も役も
廻ってこないらしい。
仕事もせずに、出来るかい!

合格発表の前に「自分はついて来れそうにないと思う人?」と聞かれた。
「はい!」と僕1人が手を上げた。
「そういう人は、もう、帰ってもらいます。」と言われたので
「今日は、良い勉強になりました。皆さん、ありがとうございました。」と言って外に出た。
時間は、4時30分になっていた。

数日後、TVの「笑っていいとも」のテレホンショッキングに鶴光さんが出ていた。
「鶴光劇団、募集してますんで。今、劇団員、いませんねん。」と言っていた。

あの連中は、その後、どうなったのだろうか?



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