マルムシ



あるところに一匹のマルムシがいました。
気の弱いマルムシは、みんなから虐められていて、いつも丸くなって引き籠もっていました。

そんなマルムシにも、心を許した友達がいました。
カタツムリです。
二匹はノンビリ屋同士、気が合っていたのです。

最近、マルムシは、カタツムリの姿を見かけなくなりました。
心配したマルムシは、探しに出かけました。

「誰かカタツムリ君を知りませんか?」
精一杯の声で、呼びかけました。
木の上から声がしました。
「あいつなら、俺が食ってやったぜ!マズかったけどな!」
マイマイカブリでした。
たった一匹の友達を無くしたマルムシは、とても悲しみました。
出歩くことも無くなり、毎日、自分の殻に引き籠もっていました。

虫達のマラソン大会が近付いてきました。
それにマイマイカブリが出場するらしいのです。
マルムシも参加することにしました。
足の遅いマルムシの参加申し込みをみんな笑いました。
「マルムシのおかげでビリにだけはならなくなったよな!
自分から笑い者になりたいなんて、本当にバカな奴だよな!」

さあ、マラソン大会の当日です。
沢山の虫達がスタートラインに並びました。
ダーン!
ゴールを目指して出発です!

マルムシは、沢山の足をせわしなく動かして、一生懸命走りました。
でも他の虫達は、もう姿が見えません。

しばらくすると、虫達が座り込んでいました。
マルムシが来るのを待っていたのです。
マイマイカブリが、マルムシを蹴飛ばしました。
「バーカ!おまえなんか参加する資格も無いんだよ!」
虫達は、口々に「バーカ!バーカ!」とマルムシを罵りました。

虫達は、少し走っては休憩しながら、マルムシを邪魔し続けました。
それでも、マルムシはゴールを目指して走り続けました。

やがて長い坂道の頂上に辿り着きました。
すると突然マルムシは、身体を丸めてゴロゴロ転がり始めたのです。

遙か彼方を走っていた虫達もドンドン追い抜かれていきます。
マルムシは、凄いスピードで転がり続けて、ついに一着でゴールインしたのです。

他の虫達は、マルムシが反則をしたと抗議しました。
でも、転がってはいけないというルールは無いので、マルムシの一着は確定しました。
マルムシは、マイマイカブリ達に勝ったのです!

でも、それからが大変でした。
マルムシは、以前よりもっと激しい虐めを受けることになったのです。
弱虫のマルムシが自分達に勝ったことが他の虫達には我慢出来なかったのです。

来る日も来る日も、マルムシは、壮絶な虐めを受け続けました。
それでも、マルムシは、昔の様に身体を丸めて引き籠もることをしませんでした。
何をされようとも、歯を食いしばって堪えたのです。

冬がやってきました。
虫達は、寒さに耐えられず、バタバタと死んでいきました。

マルムシも、身体を震わせながら、雪の降る道を歩いていました。
雪の中に、小さな穴を見つけて潜り込みました。
それは、友達だったカタツムリの抜け殻でした。
そこは、とても暖かでした。

意識が遠のき始めたマルムシに、カタツムリの声が聞こえてきました。
「マルムシ君、君は、よく頑張ったよ!
僕は、君を認めてあげるよ!」
その声を聞いて、マルムシは満足しました。
「カタツムリ君、君は分かってくれたんだね。
それでいいよ。それだけでいいよ。」

マルムシは、静かに目を閉じました。
雪は、カタツムリの抜け殻に降り積もりました。

春が、来ました。
暖かい日差しの中で、マルムシは目を覚ましました。
マルムシは、カタツムリの抜け殻の中で、冬を越すことが出来たのです。
外へ出て、緑の森の中へ歩き出しました。
マルムシを見つけた初めて見る虫達が、こちらを見て囁いています。
「弱そうな奴が来たぜ!虐めてやろうか?」
マルムシは、彼等に向かって言ってやりました。

「虐めたければ虐めるがいいさ!
僕は、絶対に負けないから!」



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